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                       3、 「桜」海に出会う

私の趣味は素潜り、魚突き。

 愛好者の数も少なく、アワビ、イセエビの密漁者と間違われ、地域によっては漁業者とのトラブルも絶えないので、どうしても冷たい目で見られるマイナーなスポーツです。一般の方々にも誤解されている場合が多く、「それって密漁じゃないんですか?」と言われることもたびたび。しかし、ほとんどの県では漁業権を持たない者でも、手モリを使った素潜りによる魚突きであれば合法なんですよ。

 魏志倭人伝にも記述が見られるように、日本人による潜水漁の歴史は非常に古く、その適性や技術の高さも広く知られるところでした。しかし残念なことに最近では漁師さんの中でも、素潜りで魚を突くなんて非効率的で過酷なことをやる人はほどんどいなくなってしまった。
世界に冠たる海洋国ニッポンの面目としても、古来より受け継がれてきたこの貴重な海洋文化を守り、子供たちに伝えていきたいと思います。(もちろん漁業権を持たない者がアワビ、サザエ、イセエビなどを採捕することはご法度です)

 さて、海外で大物を狙うときには水中銃を使用します。
海外ではほとんどの国がライセンス制により水中銃を使った魚突きをスポーツとして認め、各地でその技を競う大会が盛大に開催されています。
映像などで銃を目にされたことがある方は多いと思いますが、実際に手にとってご覧になった方は意外に少ないのではないでしょうか。

銃身の材質には大きく分けて二つ。
アルミなどの金属パイプを使用したものと木材を使用したものがあり、中でも木製の銃は適度な浮力があり水中でのバランスが良く、また工芸品のような美しさを愛する愛好家も多く、昔から変わらない人気があります。
私がこれまで使用していた銃もアメリカ生まれの木製銃でした。

 水中での使用は極めてハードで、波にもまれて岩に激突することはしょっちゅう。そして濡れた状態と乾燥とを繰り返し、陸に上がれば太陽の容赦ない熱、紫外線も受けることになり、木にとってこれ以上過酷な使われ方はないように思います。
 
今回、銃身を作り替えることになり、仕事の合間の時間を使いコツコツ作業してきましたが、やっと完成いたしましたのでお披露目させていただきます。
トリガーメカニズム(引き金)は古い銃のものを取り外して再利用。そして銃身には150年以上乾燥させた「桜」を使用しました。古い農家の梁に使われていた材で、解体された時に知人から譲り受けたものです。

 木材を銃身に使う場合、反り、曲がりが発生すると致命的なので、いろいろな工夫を凝らすことになります。その一つが木を何枚かの薄材にさいて積層材として使用することなのですが、その際に気をつけなくてはならないことは、隣り合った部材同士を交互に反転させてそれぞれの部分のクセを相殺させること。

今回は銃身の部材として4枚の板を張り合わせることにし「桜」をさく作業から始めたわけですが、やはり気になるのは薄くさいた場合の曲がり、反りの具合。桜材は緻密で乾燥さえ完璧であればそれほど暴れる木ではありませんが、それでも乾燥期間が足りないとグニャリと曲がってしまうこともあり油断できない木です。

 しかしそんな心配をよそに厚み1cm、巾3cm、長さ140cmほどにさいた「桜」はピクリとも曲がらず、反ることもありませんでした。交互に反転させて重ねても少しも狂いが生じていないのには逆に驚いたくらいです。ラミネートしないでそのまま使用してもまったく問題はなかったかもしれません。
  
 150年以上の歳月、農家の天井裏で何世代にもわたって人々の生活を見下ろし、ゆっくり時間をかけ囲炉裏の煙を浴びながら乾燥した桜。
今回の素材としてはこれ以上望めないほどありがたい貴重なものでした。